リニア中央新幹線の工事が進まない静岡県内の区間で、国の有識者会議がJR東海の環境保全対策を「適切」と評価しました。静岡県は反発し、報告書のとりまとめに異議を唱えましたが、受け入れられませんでした。一方、途中駅が設置される4県の知事は、岸田総理に開業時期の確保を求めました。
静岡県内の工事、着工できず
東京と大阪を約1時間で結ぶリニア中央新幹線は、品川-名古屋間が2027年に先行して開業し、2037年には大阪へ延伸する計画です。しかし、その目標は絶望的となっています。最大の理由は、静岡県内の工事区間約9キロがいまだ着工できていないことです。
静岡県は、トンネル工事によって大井川の水量が減ることや、南アルプスの生態系に悪影響があるとして、着工を認めていません。JR東海は、水量の確保や生態系のモニタリングなどの対策を提案していますが、県は不十分と判断しています。
4県の知事、岸田総理に開業時期の確保を要請
こうした状況に業を煮やしたのが、途中駅が設置される神奈川・山梨・長野・岐阜の4県の知事です。6日に岸田文雄総理大臣と面会し、開業時期の見通しをはっきりさせるよう求めました。
岐阜県の古田肇知事は、「ある程度の方向性を言ってほしいというのは私どもの立場。少なくとも開通時期が明らかになってくると、それに合わせた作業も弾みはつくのではないか」と述べました。
岸田総理は、「魅力的な国家的プロジェクトなので我々も努力していきたい」と話したうえで、早期開業に向けては「知事の皆様方におかれましても全体のプロジェクトが進むように、ぜひ関係自治体等にも働きかけをいただく、お力添えをいただければと思いますので、どうぞよろしくお願いします」とコメントしました。
有識者会議、JR東海の対策を「適切」と評価
国は、静岡県とJR東海の対立を仲裁するために、去年6月から有識者会議を設置しました。7日に環境保全について報告書の方向性をまとめました。トンネルを掘削する場所の周辺で、自然環境のモニタリングを継続することで、影響の最小化を目指すことなどが盛り込まれるということです。
生態系への影響については、JR東海の分析や対策を「適切」と結論づけました。有識者会議の中村太士座長は、「この方針をしっかりやっていくという責任が国にもJR東海にもある」と述べました。
静岡県は「水生生物の影響予測の議論が不十分」などとして、報告書のとりまとめに異議を唱える意見書を提出していましたが、その主張は受け入れられませんでした。静岡県の森貴志副知事は、「有識者会議がここで終了し、報告書をまとめて終わりとなるととても残念。(まだ)議論する余地があると県の方では思っている」と不満を表明しました。
これに対し、JR東海の宇野護副社長は、「この話は会議が終わったということで、すべて解決するわけではない。コミュニケーションを取り、引き続き議論させてもらう」と話しました。