北海道と本州でクマの出没と被害が相次いでいる問題について、「野生生物と社会」学会が12日、要因や対策などに関する緊急声明を発表した。同学会は、クマとの共存を目指すためには、人の安全を確保することが第一であり、一定数の捕獲は必要不可欠であると主張した。また、捕獲に関わる関係者への配慮も求めた。
同学会によると、2023年度は10月末時点でヒグマとツキノワグマによる人身被害は180人で、統計を取り始めて以来最多となっている。死者も5人に上り、その後も被害が続いている。この秋の大量出没の直接の要因は、ブナ科堅果類(どんぐり)の大凶作であるという。しかし、これまで数年おきに大量出没はあり、その規模も大きくなってきたことから、他にも複合的な要因があると考えられる。同学会は、過去10年ほどの間にクマの個体数が増えたり、分布域が広がったりして、市街地の近くにすむクマも増えたことや、集落の放置された果樹にエサを求めたこと、00年以降は捕獲が抑えられてきたことなどを挙げた。
同学会は、被害を防ぐにはまず、市街地周辺での捕獲を進めることや、不要な果樹を伐採してクマを引きつけるエサを取り除くことが必要だとした。その上で中・長期的には、人とのトラブルを減らしつつ、クマも個体群が維持できるような分布範囲、個体数に向けた管理や、管理や被害の予測に必要なデータの蓄積といった対策を早急に検討するよう求めた。また、対策にあたる人たちへの配慮も要望した。一部では、捕獲に関わった行政の窓口などに大量のクレームや中傷のような抗議が寄せられていることも報じられている。同学会は、クマについて「付き合い方を間違えれば人命を奪うこともあり、一定数の捕獲は欠かせない」とし、「関係者への配慮の無い電話や執拗(しつよう)なクレームは、関係者の努力をくじき、かえってクマとの共存を妨げる結果を招く」と訴えた。
緊急声明をまとめた同学会行政部会長の横山真弓・兵庫県立大教授(野生動物管理学)は「中傷で傷ついている職員らも少なくないと聞き、危機感を覚えている。対策の現場では、共存に向けた苦渋の選択が行われていることを理解して欲しい。人をしっかり守って初めてクマも守れる」と話した。